2013年2月19日火曜日

「戦ったらかなわない日本艦を中国艦が自信満々でロックオンする理由」

中国海軍の艦船が自衛隊護衛艦に対してレーダー照射を行ったことに関して、皆さまにも読んで頂きたい内容の記事に出会いましたのでご紹介します。
(以下引用)

戦ったらかなわない日本艦を中国艦が自信満々でロックオンする理由

 中国人民解放軍海軍江衛2型フリゲート「連雲港」(F-522)が海上自衛隊むらさめ型護衛艦「ゆうだち」(DD-103)に火器管制レーダー(FCR)を2度にわたり照射した。この事件を、アメリカのマスコミが一般的なニュースとして大きく取り上げることはなかった。また海軍関係者や専門家の間でも、今回のFCR照射それ自体が驚天動地の大事件というわけではないため、さしたる関心は持たれていない。

 実際に、中国海軍軍艦による海上自衛隊軍艦に対するFCR照射は今回が初めてというわけではないと考えるのは、海軍関係専門家にとっては常識である。国際社会の秩序など気にも留めない“無法者海軍”が相変わらず跳ねっ返りの行動をしている、といった侮蔑の感想を持つ程度の事案である。
ミサイルを発射した江衛2型フリゲート

 もちろん、それほど関心が高くないとはいえ、CNNをはじめとして事実関係紹介程度の報道はなされている。ただし、それらの報道はFCR照射そのものよりも日本と中国が尖閣諸島という無人島を巡って領有権問題をこじらせているいきさつの説明に重点を置いている。

 そして、中国国防省がFCR照射という事実そのものを否定し、中国外務省が日本政府を非難する段階に至ると、FCR照射自体よりも日中政府間の軋轢に対しての関心が高まっているといった状況である。あとは、日本政府が公表すると言っているFCR照射の証拠によって、日本政府と中国政府のどちらの言い分に信憑性があるのか? に関して若干議論が高まるものと思われる。

FCRロックオンは露骨な敵対的行為

 アメリカ海軍専門家たちは今回の中国フリゲートによるFCR照射それ自体にはそれほど強い関心を抱いていない。とはいっても、FCR照射そしてロックオンという行為自体を危険な行為ではないと考えているわけではない。

 FCR照射を大ざっぱにまとめると、まず第1段階として攻撃目標(敵の艦艇・船舶)の詳細な位置情報を確定するためにナロービームを目標に向けて照射しロックオンする。引き続き、ロックオンした目標にミサイルや砲弾などを命中させるために目標を捕捉しておくためにレーダーを照射し続ける。そして、射撃命令によりミサイルや艦砲を発射する。

 例えるならば、ライフル銃を射撃目標に向けてスコープを覗き照準を合わせて引き金には指をかけていない状態が、ロックオンの段階である。あとは引き金に指をかけて引き金を引けば銃弾がライフルから発射されるわけである。
江衛2型フリゲートのFCRの1つ「344型」FCR

 今回の中国海軍フリゲートによるFCR照射事案は、第1段階のナロービームによるロックオンであり、いまだにミサイルや艦砲発射段階ではなく危険とは言えないものの、ミサイルの発射ボタンを押せば、自衛隊「ゆうだち」めがけてミサイルが発射されるのである(もっとも「連雲港」と「ゆうだち」は3キロメートルしか離れていなかったため、ミサイル攻撃は考えられないのであるが)。

 攻撃兵器発射の一歩手前の手順を実行したこのような行動は、極めて露骨に敵対意思を示す行為と見なせる。

軍艦は国家そのもの

 いかなる国家の軍艦といえども、その国家を代表する存在として扱われなければならないというのが国際的ルールであり、公海上で他国の軍艦に対して“非礼”な行為を示すということは、その軍艦が所属する国家に対して“非礼”を働いたと見なされるわけである。逆説的に言うと、軍艦は常に自国を代表しているという自覚を持って行動しなければならない。

 つまり公海上を航行する海上自衛隊の軍艦とそれを操艦する自衛隊員たちは、わずか200名程度とはいえ日本という国家そのものなのである。

 そのような日本国軍艦に対して、日中間が戦時でないにもかかわらず、中国という国家(といっても共産党独裁国家であるため、中国共産党ということになるわけであるが)を代表する軍艦が“非礼”な行為どころか露骨な敵対的行動を取るようでは、国際社会から見るとまさに中国の品位が疑われることになるのである。

「米海軍なら直ちに反撃」は誇張しすぎ

 アメリカでも放映されているNHKニュースやインターネットの報道などで、少々気になる論評がなされていたのでひと言触れさせていただく。

 例えば、NHKニュースで解説委員が「FCRロックオンは反撃を受けても仕方がない事案」であると述べ、アメリカ海軍がイランの地上レーダーサイトからFCRを照射された際に実際にイラン側を攻撃した事例を紹介した。

 また、読売新聞は元アメリカ国務省日本部長のメーア氏が「アメリカ海軍ならば反撃している事案」と国会内での講演で述べたと報道している。

 (ただし、「反撃」がどのような行為を意味しているかという点が問題になるが、NHKの例ではFCRを照射した敵を攻撃するという一般的な意味での反撃を用いていた。メーア氏の論評についてはトランスクリプトを確認しなければどのような表現を用いたのかは定かではないが、上記の文脈ではやはりFCRを照射した敵を攻撃する意味と受け止めるのが普通であろう)

 しかし、アメリカ海軍の交戦規則(ROE)によると、公海上で他国の軍艦によってFCRが照射されロックオンされた場合、いきなり反撃ということにはならず下記のような2系統の手順を同時に実施することになる。

A:報告手順

(1)敵艦がFCRでロックオン。
(2)ただちに司令部等に報告する。
(3)その報告は15分以内に大統領に伝達される。

B:対処手順

(1)敵艦がFCRでロックオン。
(2)敵艦が自艦にロックオンしている旨を、敵艦に警告する。
(3)敵艦が引き続きFCRを照射する。
(4)敵艦にFCRを照射しロックオン。
(5)(国際常識):双方がロックオンする段階まで到達したら双方とも回避行動を取る。

 もちろん、これらの“行政事務的”な手順と並行して、敵艦が実際にミサイルや魚雷(魚雷はFCR照射とは直接関連しないものの、敵対意思むき出しの敵艦からは発射されるかもしれない)を発射して攻撃してきた場合に備えて、敵の攻撃兵器に対する各種対抗兵器がいつでも発射できる態勢をスタンバイさせる。それと同時に、対抗兵器の使用に引き続き敵艦を撃破するための攻撃兵器(ミサイル、魚雷、艦砲)の発射態勢も取る(これは、上記の対処手順での敵艦に対するFCR照射と連動している)。
 このように、場合によっては敵性国家に軍隊を送り込んで先制攻撃を敢行してまでも国益を維持する防衛戦略を用いるアメリカといえども、戦争状態にない時期に公海上で他国の軍艦からFCRによるロックオンを受けたからといって即座に敵艦を攻撃するといったような軍事的対応はROEでは認められていないのである。

 メーア氏がアメリカ海軍のROEを知らないとは考えかねる。おそらく、アメリカ護衛艦に中国フリゲートがFCRでロックオンしたならば、直ちにフリゲートに「非礼かつ危険な行為を即刻停止せよ」との警告を発し、それでもロックオンを仕掛けてきたならばフリゲートに対してFCRを照射しロックオンして、中国フリゲートなど瞬時に撃沈できるだけの強力な攻撃能力(これは海上自衛隊護衛艦にとっても同様で、中国海軍フリゲート「連雲港」など自衛隊護衛艦「ゆうだち」にとっては物の数には入らず一撃で葬り去ることができる)を発動する意志を示して威圧し追い払ったであろう、といった意味合いで「反撃」と述べたものと思われる。

中国海軍が傍若無人な侮辱行為をする背景

 他国の軍艦に対する国際常識から逸脱したFCR照射のような非礼かつ傲慢な敵対的行為は、当該軍艦そのものに対するというよりは、軍艦が代表している国家に対する侮辱行為と考えるのが海軍のみならず国際社会の常識と言わねばならない。

 残念ながら国家や軍事に対する歪んだ教育が半世紀以上にも渡って続いた結果、上記のような国際常識すら存在しない日本社会では、中国海軍フリゲートによる自衛隊護衛艦に対するFCRロックオンを、日本という国家に向けた中国という国家(この場合中国共産党)による傍若無人な侮辱行為であるというレベルで受け止めて問題視する傾向が乏しいようである。

 それでは、なぜ軍艦それ自体としては自衛隊護衛艦に及ぶべくもないF-522「連雲港」ごときのフリゲートによって日本国に敵対的行為を取らせることができるのであろうか?

 それは、中国共産党政治軍事指導者たちには「日中軍事バランスの現状から判断すれば、アメリカの直接的かつ本格的な軍事支援がなければ日本独自には中国に対する軍事的反撃はできない」との自信が満ちあふれているからである。

 F-522「連雲港」とDD-103「ゆうだち」が砲火を交えればF-522が撃沈されるであろうことは、中国海軍は承知している。また、「連雲港」救援のための中国海軍東海艦隊駆逐艦戦隊と「ゆうだち」増援の海上自衛隊護衛隊が衝突すれば、東海艦隊駆逐艦戦隊が撃破されてしまうことも中国海軍は承知している。

 しかし、たとえ数隻の中国軍艦が撃沈されても、そのときには日本各地の戦略目標(各種発電所、変電所、石油・LPG貯蔵施設、放送局など)を中国第2砲兵隊・海軍・空軍が保有する多数の弾道ミサイルや長距離巡航ミサイルにより火の海にして、日本を破滅させることができる軍事力を保有しているという事実が、指導者はじめ軍部の対日軍事優越感を支えているのである(拙著『尖閣を守れない自衛隊』宝島社新書を参照していただきたい)。

国防システムの全面的見直しが迫られている日本

 あるアメリカ陸軍大将が中国で人民解放軍の将軍たちとの宴席で歓談した際に、やや酔っぱらっていたとはいえ、ある人民解放軍大将が「我々は上海がアメリカの核攻撃で火の海になっても戦争は継続するが、アメリカはロサンゼルスが火の海になったらもうそれ以上戦えまい」と机を“ぶっ叩きながら”豪語したのには、さすがの陸軍大将も面食らったと筆者に語ってくれた。このような国際常識から大きく逸脱した軍指導者にとっては、アメリカにすがりついている日本などは、まさに物の数ではないのである。

 アメリカと国際常識的レベルの軍事同盟関係として相互協力できる程度の自主防衛能力を日本自身が手にしない限り、中国軍による傍若無人な対日敵対的行動をやめさせることはできない。

 そのためには、特定の兵器を購入したり、特別な部隊を編制したり、国防費を形ばかり増額するといった小手先の防衛努力だけに終始していては解決は不可能である。「どのような防衛能力が、日本防衛にとって真に必要不可欠なのか? そして必要でないのか?」という基本的命題に対する徹底的な検証からスタートする国防システムの抜本的転換(場合によっては、明治維新後の武士階級のように、既存の組織が解体され既得権益を失うといったような極めて大きな出血を伴う改革)が必要なことは言うまでもない。

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